婦人公論 『みんなのお墓事情』に
『婦人公論』2019年8月9日号の特集「みんなのお墓事情」に、東京里山墓苑の会員さんが当苑を選ばれた理由について語ったコラムが掲載されました。
ライター:山田真理さん リンク元:Web婦人公論(https://fujinkoron.jp/articles/-/2409
以下、リンクが切れたときのために許可を得て全文掲載します。
「死んだら、木の栄養になりたい」夫の一言から
樹木葬を選んで【みんなのお墓事情・3】
「遺言書がないと困る」と伝えていたけれど
「私が8年前、夫のお墓を探していたころにはまだまだ選択肢は少なかったですね」
そう語るのは、自宅で料理教室と予約制レストランを営む天野桂子さん(67歳)だ。8歳年上の夫が脳梗塞で倒れるまでは、夫婦2人で30年以上、東京・下北沢で飲食店を営んできた。子どもはいないものの、飼い主をなくした保護犬などを引き取って可愛がってきたという夫妻。
「もう一つ、夫婦で25年間楽しんできたのが秩父の山小屋です。飲み仲間で資金を出し合い、丸太を積んでログハウスを建てて。休みのたびに集まっては囲炉裏端で飲んだくれるのが、夫は大好きでした」
お店は深夜までの営業で生活は不規則、酒量も多かったことから、「夫は早死にしそうだな、と私は思っていたの(笑)。お店のこともあるし、『遺言書がないと困る』と伝えてはいましたが、『お前はオレを早く殺したいのか!』と、一切耳を貸してくれませんでした」
オレが死んだら、木の栄養になりたい
それは脳梗塞からの闘病中も変わらず、1年後に亡くなったときには葬儀からお墓まで、桂子さんは試行錯誤をすることに。
「お墓については、実家のお墓に入りたくないようだとはうすうすわかっていました。次に、近所にお墓があれば毎日お参りもできて嬉しいかもと思ったのだけど、宗派が異なったり、お墓の雰囲気がどうも好きになれなかったり」
樹木葬を思いついたのは、山小屋の近くに植えた栗の木が育ったのを見て、「オレが死んだら、木の栄養になりたい」と夫がつぶやいていたのを思い出したからだそう。
「でも当時、樹木葬を募集していた墓苑が岩手県と鳥取県しかなかったんです。埋葬したはいいけれど、お参りが大変で放ったらかしにしたら悪いでしょ。同じ自然葬なら、海洋散骨にして『お魚の栄養にしたらダメかしら?』とも考えたのですが、相談した甥っ子から『おじちゃんは海ってイメージじゃないよ』と却下されてしまって(笑)」
ほとほと困った桂子さんは、お墓選びを小休止。葬儀で集まったお香典を自然保護団体へ寄付しようと決めて、夫も賛同してくれそうな
NPOをネットで探し始めた。
「そのとき、たまたま、八王子市で里山保全活動をするロータスプロジェクトという団体が、『東京里山墓苑』で樹木葬をスタートする
という告知を見つけたんです」
さっそく甥っ子に車を出してもらって見学に行くと、里山を背景に巌のような納骨堂があり、脇には山桜が植わった墓苑があった。
「ひと目見て、ああ、夫が好きそうだわって思いました。それに隣には、ペットが入れる共同墓もある」
『樹木葬はいいな』とは思うけれど
夫の実家には、「樹木葬にしたい」と話したらこころよく了承してくれた。ただし、埋葬前には菩提寺へ位牌とお骨を持参し、お経をあげてもらうなどして、桂子さんなりに仁義を切ったという。
一昨年、夫が可愛がっていた老犬も亡くなった。夫と愛犬が眠るそばに立つ山桜の生長を見守りながら、昨年桂子さんは夫の七回忌
を迎えた。ロータスプロジェクトの運営者や会員ともすっかり仲良くなった。
「『樹木葬はいいな』と思います。でもね、私がそこに入るかどうかは、まだ決めていないの」といたずらっぽく笑う桂子さん。
「もちろん夫のことは大切で、だからこそお墓選びも真剣にやりました。でも、『あんなケンカもした』なんて思い出すと、『一緒に入ってあげない!』とも思うわけです(笑)。そんなものでしょう、夫婦って」
一方、桂子さんの実家の墓については、妹が離婚して実家に戻ったのを機に、「大変だと思ったら、いつでも墓じまいして」と伝えた。先祖の墓にはこだわらない桂子さんの方針を、きょうだいも理解してくれている。
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お墓をどうするか決めるのは、当たり前のことながら、生きている人のすることだ。すでに亡くなった人に忖度して旧来の墓に囚われるよりも、「今を生きている人にとって何がベストなのか」を考えて選び取っていく。そのプロセスが、実は大切なのかもしれない。